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味覚極楽の銀座 その2 [読書放浪]

一軒一軒礼賛していたら、京橋まで行かない中に日が暮れてしまう。だが、歓楽の街は食味の街で、唾を催しながら談味するのもまた都会生活の一享楽である。新橋のとば口からして青柳があり千疋屋があり、一軒置いて支那料理の彩華が東側の秀華と相対して五茄酒や焼き豚を窓に並べている。銀座の美味に飽満しようとしたら胃袋の一ダースや二ダースあっても足りない。

と言うと銀ブラの興味は味覚極楽であるらしいが、談味もまた都市生活の要件、銀ブラの自然に足の向くのは尾張町以南の西側である。

西條八十の虎と獅子とが酌に出る銀座のニ大女人国のの一のライオンが東側の一角にあるのを他にしては、これと斜め向かいにタイガーが軒の虎のコミカルサインボールドで客を呼んでるを初め、これを挟んで各々数軒を置いて松月と小松食堂とがある。

不二家洋菓子点がモバ、モガを満たして二階も下もいつでも満員であるは言うに及ばず、二十年前のハイカラが幾多の会話を残した喫茶店、その隣りの銀座食堂、尾張町離の澤正食堂、モナミ、アルプスを通り越して竹川町、出雲町と二町に跨って両角を占める資生堂、中四五軒置いてエスキモー、続いて彩華、千疋屋、一々応接に遑あらずだ。

更に横へ少し入ると風月、天金、竹葉、銀座の名物と言うよりは全国的に響いている。電車道を横断して以北へ行くと赤瓢箪、銀ブラ、大橋食堂、京橋手前まで行けば皆川ビルのヤマトがある。名前を並べるだけでも食傷する。

西側に比べると東側は輸色があるが、何と言っても銀座の女王たるライオンが尾張町の一角にある。松喜、早川亭、三幸、銀座ビヤホール、西側のモダン味があるに違えて世帯じみている。ライオンが一軒で東側を背負って立ってる感がある。

尾張町以北も松屋を越すと、銀座の場末であるが、キリン、クロネコ、バッカスは地理的不利の位置にあるに拘らず、近代的の色彩を漂わしてライオン、タイガーに次いでの銀ブラの出丸である。佐々木の清涼飲料点は化粧品の副業であって、資生堂ほどに身を入れないが、暖炉が古いので相応に繁盛している。

丸見家の大阪鮨は竹川町の三幸、西側の帆掛鮨とともに銀ブラの別働隊でまた相応に賑わっている。千疋屋のフルーツケーキ、不二家のエクレア、田丸屋掻餅あられ、ちと旬ハズレだが、毛利のドッチャダンネ、家庭円満の銀ブラのお土産である。

味覚極楽のこの兜率天が銀座の中心で合って、ラッシュアワーの前奏曲が済むと銀座の夜の幕が開く。




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