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銀座は今は市民の遊歩区域 [読書放浪]

銀座が文明開化の實物教授として蜃気楼の出現よりも驚嘆された頃には新橋の橋のふもとには、いつでも赤ゲットの三人や四人は屯ろしていた。

赤ゲットといってもこれからの青年には地引を引かなければ通じなくなるだろうが、地方人が一生の憶出に赤ゲットを背負って東京見物に出かけた頃の銀座は東京名所双六の振り出しでもあれば上りでもあった。

交通の進歩が地方と東京との距離を短縮し、南は琉球の石原小石原、北は蝦夷樺太の果からでも着流しのフェルトでブラリと来られるのだから、銀座は最早プロムナードの1つで一生の憶出にボカンと口を開いて見物する場所ではなくなった。

ニューヨークの五丁目の自動車事故が1週何件、ロンドンのリジェント通りで捕まる万引きが1日何人、モンマートルにはカフェが何軒、クルフェルステンダム通りのキネマの小屋が何軒あると諳んじてる世界的地廻りがウヨウヨしているこのころ銀座の礼賛でもなかろう。

夷人の国にもこねぇな賑やかな綺麗な街はなかんべえ、とぶったま消えた50年前の赤ゲット心理で銀座を語るのはちょうど我々が適り役だろうと、そのつもりで銀座を見物する了簡でまず振り出しの新橋駅まで省電へ乗った。


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